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糖尿病トピックス


【糖尿病新薬SGLT(ナトリウム依存性グルコース輸送担体)-2阻害薬の登場
14/02/17
DPP-4阻害薬が日常診療で使用可能となって4年以上経過しました。
現在、多くの患者さんに用いられ、血糖改善効果や有害事象が少ないことから第一選択薬として利用されることも多くなっています。
さてマスコミでも既に報道されていますが、本年の春に新しい作用機序を有する経口糖尿病薬SGLT-2阻害薬が登場してきます。これまでの糖尿病薬はインスリン分泌の改善、インスリン作用の改善、腸管からの糖の吸収を阻害させて血糖の改善を達成してきました。今回のSGLT-2阻害薬は、尿細管からのブドウ糖(グルコース)の再吸収を阻害することで、尿糖を増やし血糖を低下させます。海外の成績では血糖低下作用に加えて、体重も減少させ、血圧も低下することが知られています。ただし尿糖が増えてますので、頻尿傾向、少し脱水傾向になってしまう可能性や、特に女性において外陰部カンジタ症や尿路感染症の頻度が増える(約5-10%程度)ことが報告されています。当然ながら検尿をすると尿糖は強陽性になります。
また短期間の血糖コントロールの指標として用いられている血中1,5AG(アンヒドログルシトール)は異常低値となりますので評価ができなくなります。これまでの薬と作用機序が異なることから、食事・運動療法のみでコントロールできない場合への単独投与のみならず、すでに他剤を投与されていて血糖コントロールが不十分な方への併用は有用と思われます。
主治医とよくご相談されてみて、もしも内服される場合には水分摂取を少し増やすなどの工夫が必要かもしれません。また発売後1年間は他剤と同様2週間処方しかできませんのでご留意ください。


【血糖コントロール目標値について
13/05/16
血糖正常化を目指す際の目標はHbA1c(NGSP)を判断区分としています。今までは「優」は6.2%未満、「良」は6.2〜6.9%未満、「不十分」は6.9〜7.4%未満、「不良」は7.4〜8.4%未満、「不可」は8.4%以上と一律に判断しておりました。平成25年6月1日から「年齢」、「罹病期間」、「臓器障害」、「低血糖の危険性」、「サポート体制」などを考慮し、個別に設定する事となります。
@HbA1c6.0%未満(血糖正常化を目指す際の目標):食事療法や運動療法だけで達成可能な場合。薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合。
AHbA1c7.0%未満(第一ハードルとして)合併症予防の為の目標。
BHbA1c8.0%未満
:低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標。

平成24年4月1日から変更となります!】
12/01/25
これまで日本で用いられてきたHbA1c値(JDS値)は、海外で広く用いられているHbA1c値(NGSP値)よりも0.4%低いことが明らかとなっており、糖尿病の臨床研究の論文化や国際学会での発表に際して問題がありました。日本糖尿病学会はこれまでHbA1c値の国際標準化(NGSP値を採用すること)を目指しており、既に学会報告や論文化にはNGSP値を用いております。一般臨床においては、これまでの測定値よりも表記が0.4%増加するため、患者さん達に混乱を来すことから、一定期間は周知期間として案内を雑誌「さかえ」などに記載していました。
この度、日本糖尿病学会は平成24年4月1日
より日常診療においてもHbA1c値をNGSP値で表記することになりました。しばらくはこれまでの表記方法であるJDS値も併記していきます。なお、血糖コントロールもこれまでのHbA1c値に0.4%加えたものとなります。すなわち「優」は6.2%未満、「良」は6.2〜6.9%未満、「不十分」は6.9〜7.4%未満、「不良」は7.4〜8.4%未満、「不可」は8.4%以上となります。一見すると血糖コントロールが悪化した印象をお持ちになるかも知れませんが、徐々になれていくしかないですね。

【糖尿病の診断基準が変わります。】
10/06/07
5月27日〜29日に岡山市で開催された第53回日本糖尿病学会学術総会で、糖尿病の診断基準が改訂(7月1日から実施)されました。
これまで@空腹時血糖値≧126mg/dL、A75g経口ブドウ糖負荷試験2時間血糖値≧200mg/dL、B随時血糖値≧200mg/dLを示す場合に「糖尿病型」とされ、別の日に「糖尿病型」を再び認める場合に「糖尿病」と診断されていました。ただし1回の「糖尿病型」でも高血糖特有の症状があったり、網膜症を認めたり、HbA1cが6.5%以上認めれば診断可能でした。
今回HbA1c≧6.1%が4番目の「糖尿病型」の診断基準に追加されました。すなわちHbA1cが格上げされた形となりました。このことは、採血した日に血糖値とHbA1c がこれらを満たせば、即日診断ができるようになったことを示します。しかしながらHbA1cが2度「糖尿病型」を呈しても血糖値の上昇が確認されないと「糖尿病型疑い」と扱われます。血糖値の上昇が確認されて初めて「糖尿病」と診断されます。
皆さんもお気づきになられたと思いますが、HbA1c値がこれまでの6.5%から6.1%に低下しています。これは欧米や中国、韓国などアジアで使用されている表記が「NGSP値」といい、日本独自の表記法である「JDS値」と0.4%の差異があり、諸外国が糖尿病の診断基準としてHbA1c≧6.5%を採用していることから、日本も歩調を合わせた結果、今回の6.1%が採用された訳です。ちょっと戸惑うことになりますが、将来的には「NGSP値」による表記法に移行されることになっています。

【新薬DPP−IV阻害薬の登場】
10/01/28
以前、このコーナーで御紹介したDPP−IV阻害薬であるシタグリプチン(商品名:ジャヌビア・グラクティブ)が平成21年12月上旬から用いることができるようになりました。これまでの作用機序と異なり、血糖が高い時のみ膵臓からインスリンが分泌されるため、低血糖が極めて生じにくい特徴を持ちます。また1日1回の内服ですむので飲み忘れも起こりにくいと考えられます。その他、血糖を上昇させるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑制したり、胃からの食物の排泄が遅れたりするため、食後血糖を低下してくれます。どのような糖尿病をもたれた患者さんに使用していけばよいか、副作用はどうか(治験段階では重篤なものはない)などに関しては、これから多くの使用症例を検討していく必要があります。

【増加し続ける糖尿病患者!次の一手は?】
08/05/09
先日発表された厚生労働省の「06年国民健康・栄養調査」によると、HbA1cが6.1%以上で「糖尿病が強く疑われる人」(患者)が約820万人、5.6%以上6.1%未満の「糖尿病の可能性を否定できない人」(予備軍)が約1,050万人、あわせて計1,870万人にのぼることが明らかになりました。1,870万人の内、男性が880万人、女性が990万人であり、国民5.6人に1人の割合で糖尿病患者+予備軍がみられることになります。前回の2002年よりも250万人(15.4%)の増加を意味しており、増加傾向に歯止めがかかっていないことを示しています。とりわけ女性が200万人と増加の大半を占めていました。年齢別では70歳以上の高齢者が34.8%と最多でした。
本年度から実施される特定健診ならびに特定保険指導によって、医療機関への受診推奨となる糖尿病+予備軍の患者さんがさらに増加することも意味しています。糖尿病合併症は生活の質を落としてしまいますので、その予防が重要です。また予備軍ですでに動脈硬化が進展しやすいとの研究成績も報告されています。
国をあげて生活習慣の改善に努めなくてはいけない時代に突入してきた感があります。「あばたもえくぼ」と昔から言いますが、現代社会では「あなたもメタボ」でしょうか?(おやじギャグでした・・・)

【新たな経口糖尿病薬-DPP−IV阻害薬-への期待】
07/10/09
以前、膵臓からインスリン分泌の亢進ならびに他の機序により、ブドウ糖産生を抑制する腸管ホルモン、インクレチンが注目されていることをご紹介しました。今回はインクレチンを体内で分解する酵素であるDPP−IVを抑制することで、血中インクレチン濃度を上昇させて血糖低下をはかる経口剤である、DPP−IV阻害薬についてご説明しましょう。既に米国では臨床使用が認可されていますが、日本では第3相の治験段階でもうしばらくすれば用いることができるようになるでしょう。この薬剤は、GLPー1製剤とは異なり注射をする必要はなく、1日1回の経口内服で十分な血糖降下作用がみられます。治験などの成績では、HbA1cを0.5−0.7%程度低下させてくれます(症例によっては1%以上の低下例もみられます)。他のインスリン分泌促進薬とは異なり、低血糖が生じにくいことが利点としてあげられます。副作用として消化器症状がみられることがありますが、他の特異的な副作用はみとめられていません。これまでの経口糖尿病薬との併用効果もみられており、より厳格な血糖コントロールを可能にしてくれるでしょう。

【夢の新薬:GLP−1アナログの治験進行中!】
07/02/19
従来、同じ量のブドウ糖を経口的に負荷した方が、経静脈的に負荷した場合よりもインスリン分泌量が多いことが知られていました。そして腸管から分泌される「インクレチン」という一連のホルモンが、膵臓のβ細胞を刺激してインスリン分泌を亢進させていることがわかっていました。今回のGLP-1はこの「インクレチン」のひとつであり、インスリン分泌を刺激し、血糖を上昇させるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑制するため、血糖を低下させます。またこれまでのインスリン分泌経口薬と異なり、低血糖の危険性も少ないことが特徴です。その他、この薬には胃内容物の排出が遅らせる効果があり、食後の高血糖を抑制しますし、中枢に働いて食事の摂取量を減らし体重減少効果もみられます。さらに動物実験レベルではありますが、膵臓のβ細胞の量を増加させてくれるという夢の効果もみられます。GLP-1は投与するととても早く代謝されるため、一部構造に変化を与えたGLP−1アナログ製剤として現在、日本でも治験が進行中です(当クリニックも参加しています)。ただし、経口薬ではなく、1日1回の皮下注射が必要となります。丁度、インスリン注射と同じデバイスを用いて投与しますので、比較的簡単に投与でき注射針の痛みも「蚊にさされるよりも痛くない」程度です。低血糖も起こさずに着実に血糖を低下させてくれ、膵臓のβ細胞量を増加させてくれるこの新薬が日常診療で用いることができるようになれば、「2型糖尿病はGLP-1アナログ、1型糖尿病はインスリン製剤」の時代が訪れるように思われます。

【糖尿病と歯周病の意外な関係】
06/11/09
以前から糖尿病患者さんでは歯周病が多発し重篤化することが知られていました。血糖コントロールが不良ですと良好な場合に比べて、歯周病は悪化し喪失歯数が倍増する成績もでています。糖尿病患者さんでは食事をすることが楽しみの一つでもあり、歯がなくなることは大変な問題ですよね。「入れ歯をつくるから大丈夫」なんて言っている人は、後で後悔しますよ。
さて近年、逆に歯周病が糖尿病の血糖コントロールに影響をもたらすとする報告が散見されます。実際に歯周病の治療を行った場合に、HbA1cレベルが有意に低下するというものです。なぜ歯周病が血糖コントロールに影響を及ぼすのでしょうか?おそらくは歯周病においてインスリン作用を阻害するサイトカイン(腫瘍壊死因子〈TNF〉-α)の血中濃度が上昇するためと考えられています。
また歯周病は動脈硬化の危険因子とも考えられており、狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などの発症にも関連があるとされています。ご存知のように糖尿病では心臓・脳血管疾患の合併が多くみられますので、歯周病を合併するとさらに深刻な問題となります。
以上の点を踏まえて、歯周病をお持ちの糖尿病患者さんはまず歯科に受診され、治療を受けてください。症状のない場合も定期健診をお受けになると良いでしょう。くれぐれも対処が遅れて、歯周病が「死臭病」とならないように注意してくださいね!

【「夜食症候群」は糖尿病合併症の発症・進展を促進する。】
06/08/18
糖尿病患者の約10%の人で、1日の摂取カロリーの約1/4以上を夕食後に摂取していることが最近「Diabetes Care」誌に報告されました。このような「夜食症候群」を有する患者さんは、肥満・血糖コントロール不良・糖尿病合併症(心疾患・腎障害・神経障害)を有する割合が、それ以上の患者さんに比べて2〜3倍多いとのことです。
夜食症候群」が生じる機序に関してはあきらかではありませんが、ストレスの関与が指摘されています。すなわち、ストレス解消のために摂食行動が生じるとのことです。また、「夜食症候群」では就寝後にスナックをとるために覚醒することもしられています。摂食する内容は、脂っぽくて甘いものが多いそうです。
夜食」のとりすぎで「やーショック!」とならないようにご注意を。

【腎結石に対する体外衝撃波結石破砕術で糖尿病のリスクが上昇】
06/04/25
すでに新聞でご覧になられた方も多いかも?
「腎結石の治療法として広く用いられている体外衝撃波結石破砕術(ESWL)が、糖尿病ならびに高血圧症の発症を高める」−衝撃的な報告がメイヨ・クリニックからなされました。1985年に同クリニックでESWLを受けた630名の患者さんに質問調査を行ったところ、約60%の方から返答が得られました。結果、19年後には内科的治療を受けた場合に比較して、ESWL群では糖尿病が約4倍、高血圧症は約1.5倍のリスクで発症しました。糖尿病発症にはESWLの頻度と強さが関連しており、一方、高血圧症は両側腎結石の治療と関連していたとのことです。どうして、ESWLで糖尿病と高血圧症の発症が増加するのか、具体的な機序はまだ不明ですが、衝撃波により膵臓のβ細胞が障害を受けて糖尿病を、また腎臓が障害をうけて血圧上昇に関連するホルモン:レニンの分泌に影響を及ぼして生じるなどの機序が考えられています。
しかしながら、現在では報告された1985年に用いられた機械とは異なっていることから、今後のさらなる検討が必要と報告者は結んでいます。今後の腎結石の加療方法も再考すべき時代にきたのでしょうか?
昔『ドラゴンボール』という漫画が一世を風靡しましたが、主人公・孫悟空が発した「カメハメ波」を受けた人たちは、糖尿病になったのでしょうか?・・・・・
いや、命を落としていましたね。

【吸入型インスリンが米国ならびに欧州で認可】
06/02/02
かなり以前からインスリン投与ルートに関する研究が行われてきましたが、これまではインスリンを皮下に注射する方法(ペン型またはポンプ式)しかなく、針の痛みから逃れる術を持ち合わせていませんでした。しかしながら、本年1月26日に欧州で、翌27日に米国で吸入型インスリンの臨床使用が正式に認可されました。用いられるインスリンは「速攻型インスリン」であり、長時間作用型のインスリンではありません。したがって現在用いられているインスリン製剤によっては、やはり皮下注射しなくてはいけない場合がありますが、工夫によっては注射回数を減らすことも可能になるのでは…(必ず主治医の先生とご相談が必要です!)効果に関しては皮下注射とほぼ同等の効果が得られることが明らかにされています。しかしながら、気道粘膜の状態(風邪・インフルエンザなど)によって吸入型インスリンの吸収に変化が生じる可能性があり、投与されたインスリン量に見合った血糖低下作用が得られない危険性も否定できません。したがってBernstein先生は、「自分の膵臓からインスリン分泌が維持されている2型糖尿病患者さんには、少量投与によって食後血糖を下げてくれるメリットがあるが、枯渇している1型糖尿病患者さんには吸入型インスリンでは厳格な血糖コントロールは困難かもしれない。また病型を問わず、大量のインスリンを用いている患者さんにも使用は困難と思われる」とのコメントを述べておられます。また注射と異なり、気軽に投与することが可能となったが故に、間食の際ごとに吸入するような不適切な使用は避けなければなりません。あくまでも生活習慣が糖尿病治療でのキーポイントなのでお忘れなく!
日本での使用はまだ数年先の話だと思いますが、欧米での臨床成績を慎重に評価していくことが肝要と思われます。また、近い将来「飲むインスリン製剤」の開発が進んでいくことでしょう。それまでは現行の治療で良好な血糖コントロールを維持していきましょう。
ちなみに今回の夢の吸入型インスリンを開発したのは、EDの夢の治療薬「バイアグラ」を世界で初めて世に送り出した「ファイザー製薬」です。

【睡眠障害は糖尿病発症の危険因子】
05/12/22
糖尿病専門誌「Diabetes Care」11月号に「睡眠障害は糖尿病発症の危険因子」とする論文が掲載されました。スウェーデンで実施された前向き研究で、2663名に対して睡眠や健康状態などに関する質問用紙を郵送し、内70.2%から回答を得て、さらに12年後回答が得られた生存者に対して再び同様の質問用紙を郵送し回答があった77.6%のデータを解析したものです。
結果は男性において当初睡眠時間が短い(5時間以下)者は約2.7倍(16%vs5.9%)、就眠障害を認めた者は約5倍(16%vs3.1%)、中途覚醒を認める者は約4.4倍(28%vs6.3%)、そうでない者に比べて糖尿病発症が高頻度にみられました。一方、女性では反対に睡眠時間が長い(9時間以上)場合に糖尿病発症が多くみられました(7.9%vs2.4%)。年齢と種々の危険因子で修正し検討した結果、男性での睡眠時間が短いこと並びに中途覚醒が有意に糖尿病発症の危険度を上昇させていました。機序としては睡眠障害による交感神経の緊張や、視床下部ー下垂体ー副腎系が活性化することでインスリン抵抗性(インスリンの作用が低下する状態)が生じて、糖尿病状態を引き起こすためと考えられています。実際に睡眠障害の最たる睡民時無呼吸症候群では高率に耐糖能異常を合併することが知られています。睡眠障害を有する場合には、その治療も十分考慮しなければならないことを示した報告と思われます。
さて今回の成績をあてはめるならば、「眠れる森の美女」は最後には糖尿病になったのでしょうか?

経口糖尿病薬アクトスは心血管疾患の予後を有意に改善する】
05/09/20
現在、数多くの糖尿病薬が臨床の場で用いられるようになりました。その中でもインスリンの効果を改善させ血糖低下を来たす薬剤がアクトスです。これまでの動物実験や少数例での臨床研究の結果から、アクトスには血糖改善とは別の機序により、動脈硬化の発症・進展を抑止する効果がありそうだと期待されてきました。しかしながら、数多くの患者を対象にした前向き試験の成績はなかったので、「本当にそうなのか?」と確信が得られない状況だったのです。そんな中ついに本年9月12日、アテネで開催された第41回欧州糖尿病学会において、5000名以上の2型糖尿病患者を対象にした大規模臨床試験PROactiveの成績が発表されました。中でも注目を浴びたのは、アクトス群がプラセボ(偽薬)群と比較して、心筋梗塞、脳卒中、全死亡の危険度を16%有意に減少させることができた点です。アクトス群の方がHbA1cを0.5%有意に低下させたのですが、以前の大規模臨床試験であるUKPDS では血糖改善により大血管症の危険度は有意に低下しなかったことが示されていることから、今回のアクトスによる大血管症の予防効果は血糖改善によるものとは考えにくいと思われます。この試験の対象患者には、大血管症の発症・進展に対して予防効果があるとされる薬剤(アスピリン・高脂血症薬・降圧剤など)がすでに内服されている症例が多く、アクトスを追加することで16%の危険度をさらに低下させたことは驚愕に値するといっても過言ではありません。また対象患者の約半数例に、心筋梗塞や脳梗塞のような心血管疾患の既往が存在していたことから、より軽症患者ではアクトスの効果がより鮮明になる可能性も否定できません。試験期間も3年であり、より長期の研究ではこの差が顕著なる可能性も十分考えられます。血糖を下げてくれる薬剤が合併症の予防にも効果がある―医療費が増大していく現代において、1剤で2度おいしい薬剤の登場に期待が高まります。
今年上半期に一番売れた液晶テレビは「アクオス」でした。さて「アクトス」は一番多く処方される経口糖尿病薬となれるか???

【カフェインで無自覚低血糖よ、さらば!】
05/07/11
近年、自分で対処ができない低血糖(無自覚低血糖)の既往のある方には、自動車免許証の再交付が難しくなりました。意識消失から大きな事故につながる危険性が高いからです。一般に通常血糖値が70mg/dlをきってくる頃から、強い空腹感・だるさ・眼がチカチカする・手指が震える・動悸・冷や汗などの症状があらわれます。これが低血糖症状です。この時期に糖分の摂取をしないと、意識消失をきたし昏睡状態に陥ります。無自覚低血糖とは前途の低血糖症状が出現せずに、すぐに意識消失にいたるものを言います。
とりわけ、日頃の血糖コントロールが良好すぎる人・低血糖を何度も繰り返す人・神経障害の進んだ人などに起こりやすいとされています。以前からも注目されていましたが、最近になって学会誌でよく提唱されているのは、「カフェイン」の摂取が無自覚低血糖を予防することです。「カフェイン」摂取量は日常生活でとる程度でよいみたいです(1日数回のコーヒーでよい)。「カフェイン」がどうして無自覚低血糖を予防できるのかは、不明な点が多いのですが、一部「カフェイン」がノン・レム睡眠に影響を及ぼすことが関与していると考えられています。
あれれー、「カフェイン」の摂りすぎで、夜間に眼を爛爛と輝かせているのは誰ですか??

【糖尿病性腎症も寛解可能に】
05/05/20
これまで糖尿病性腎症は一旦、形成されると不可逆性なものと考えられてきました(いわゆる「ポイント・オブ・ノー・リターン」の考え)。しかしながら、1998年7月にミネソタ大学から発表された「膵臓移植後の正常血糖コントロールによって1型糖尿病患者さんの糖尿病性腎症が組織学的にも改善をしめした」とする論文を端緒として、2型糖尿病でも同様の現象が認められることが発表されています。厳格な血糖コントロール、血圧の正常化、腎臓保護作用を有する降圧剤(ACE阻害薬・ARB)の投与などにより、腎症の寛解や退縮が期待できる時代になってきたわけです。
今年神戸で行われた日本糖尿病学会でも、糖尿病性腎症の寛解や退縮に関するシンポジウムが開かれていました。腎症が進行して人工透析導入にいたらないようにするためにも、この分野の研究が進歩して多くの患者さんがその恩恵を受けられるようになると良いですね。

【日本人における「メタボリックシンドロームの診断基準」が決まりました!】
05/04/18
これまでにも心血管病(動脈硬化性疾患)の危険因子(高血圧・高脂血症・耐糖能異常など)が同一個体に集積してみられることが知られており、シンドロームXや「死の四重奏」などと呼ばれてきました。最近では全世界的にもメタボリックシンドロームと呼ばれるようになり、米国やWHO(世界保健機関)でその診断基準が作成されてきました。今回、わが国でも平成17年4月に日本人版「メタボリックシンドロームの診断基準」が策定されました。注目する点は、腹腔内の内臓脂肪蓄積が最も上流の危険因子(諸悪の根源)とされた点です。したがって、診断する上では内臓脂肪蓄積が必須項目となりました。今年から金沢市が行う「すこやか検診」でも腹囲測定が必須事項になったのもうなずけますね。
では、以下の決定した診断基準を掲載します。

★ 内臓脂肪(腹腔内脂肪)蓄積
   :ウエスト周囲径     男性≧85cm   女性≧90cm
       (内臓脂肪面積 男女ともに≧100uに相当)
★ 上記に加え以下のうち2項目以上
   1)高トリグリセリド血症  ≧150r/dl
              かつ/または
     低HDLコレステロール血症  <40r/dl
   2)収縮期血圧   ≧130oHg かつ/または 拡張期血圧  ≧85oHg
   3)空腹時高血糖 ≧110r/dl

【糖尿病は認知症(痴呆)の危険因子】
05/03/01
最近発表された報告では、これまで中高年者の心・脳血管疾患の危険因子とされてきた高コレステロール血症・高血圧・糖尿病・喫煙が、老年者における認知症(痴呆)の危険因子でもあることが明らかとされました。上記の内、2つを有すると有しない場合に比較して認知症になる危険度は1.7倍となり、3つを有すると2倍に、4つすべてを有すると2.37倍に上昇することが判明しました。また同報告では、心・脳血管疾患の加療を早く行った方が、認知症の発症危険度を低下させる効果があることにも言及しています。各々の危険因子の中でも最も認知症の危険度を高めるのは糖尿病であり、有しない場合と比較して46%危険度を上昇させていました。
確かに糖尿病を有する患者さんでは、頭部MRI検査にて多発性のラクナ梗塞がみられることがあり、その数が多いほど認知症に至りやすいことが知られていました。今回の報告もそれを支持する成績と言えるでしょう。また、糖尿病を有する患者さんに認知症を発症された場合、食事療法も厳守できず、また薬の管理も困難になることから、血糖コントロールは極めて不良に陥りやすくなります。
現在、あなたは4つの危険因子の内、いくつ克服されていますか?

【糖尿病を合併した高血圧の治療について】
−「高血圧治療ガイドライン2004」から−
05/01/13
つい最近、日常の高血圧診療の座右の銘とも言える「高血圧治療ガイドライン2004」が出版されました。多くの国内外の大規模研究の成績を取り入れ、日本人に適したものとなったようです。この中で糖尿病を合併した高血圧患者さんの場合、降圧目標値は130/80mmHg未満に設定されています。かなり厳しい目標値です。しかしながら、それを達成できれば脳卒中・心筋梗塞などの大血管症は抑止することが可能なのです。治療開始血圧によって、@130〜139/80〜89mmHgの場合には生活習慣の修正ならびに血糖管理を3〜6ヶ月で評価し効果が不十分であれば薬物療法になります。また、A140〜90mmHg以上の場合には生活習慣の修正・血糖管理と同時に降圧薬治療が開始されます。まず最初に用いられる降圧薬(第一次薬)は、ACE阻害薬、ARB、長時間作用型Ca拮抗薬になります。単剤にて効果が不十分な場合には、用量の増加、他の降圧薬に変更、他の降圧薬を併用などが行われます。
血糖コントロールだけではなく、血圧コントロールでも満点がとれるようにがんばりましょう。


[「糖尿病は癌の危険因子」
04/11/09
これまでも糖尿病が癌の危険因子となることが海外で報告されてきました。今回、第63回日本癌学会(福岡市)において愛知県がんセンター研究所から日本人での多数例の成績が発表されました。現在、糖尿病を有している人、あるいは糖尿病の既往を有する人は、糖尿病を有していない人よりも癌になる危険率が1.4倍になり、なかでも肺がん(男性:1.5倍、女性:1.6倍)、肝臓癌(男性:2.2倍、女性:2.3倍)、咽頭癌(男性:2.3倍)、食道癌(男性:1.7倍)、膵臓癌(男性:2.3倍)、大腸癌(男性:1.3倍)胃癌(女性:1.7倍)、子宮頸癌(1.9倍)で有意に高くみられました。したがって、糖尿病と癌との共通する危険因子、すなわち大量飲酒、運動不足、喫煙、高脂肪食、生野菜の摂取不足などの改善が重要といえますね。また当然、癌は早期発見が重要ですので、少なくとも年に1回は胸部X線検査、上部消化管検査(胃透視、内視鏡検査)、便潜血の有無、腹部超音波検査をお受けになると良いですね。


笑う門には福来り
04/10/01
今年の日本糖尿病学会で天理よろず相談所病院から「笑い」が「食後高血糖」を抑制するというおもしろい成績が発表されていました。糖尿病患者さんに漫才や落語を聞いてもらい、食後の血糖上昇がどうなるのかをチェックしたのですが、約20〜40m:1.3倍)g/dl程度の血糖の上昇を抑えることが可能でした。これまでは、不安・悲しみ・恐怖・怒りなどの陰性感情はストレスとして血糖を上昇されることが知られていました。今回の成績は、一生涯お付き合いをする糖尿病であればこそ、笑って向き合っていくことが大切であることを教えてくれていますね。さー、皆さん、ご一緒に。「ワッハッハッ」


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